Asymmetry アシンメトリーとは

アシンメトリーは、左右非対称、不均衡、不安定、不完全、不規則、不調和という意味。
その反対はシンメトリーの左右対称、均衡、安定、完全など。
アシンメトリーはアンバランスさ、変化が特長で、オシャレでカッコいい印象を表現したいときのテクニックとして有効。
デザインで、アシンメトリーはデザインのある箇所に注目を集めたいときや、流動性や躍動感を伝えたいときなどに、アシンメトリーを活用されている事が多いです。
西洋のデザインでは、シンメトリー(左右対称)が美しいとされています。
格式高いお城や庭園では必ずシンメトリーの造形が見受けられます。
例えば、ヴェルサイユ宮殿の豪華絢爛なお部屋、完璧にシンメトリーに作り込まれた人工的な美しさの庭園など。

それに対し、古くから日本人は、不均衡・不安定・不完全などアシンメトリーの美意識を大切にしてきました。
これには歴史的な背景があるようです。
重心や奥行きを意識しながら、あえて均整を破り、不等辺三角形に要素を配置する手法を用います。
変化のある造形が、奥行きのある空間の創造をもらたします。

歴史を縄文時代までさかのぼると、岡本太郎が指摘したように日本の美意識の根底には、縄文式土器の『おどろくほどはげしい』隆線紋の力強さと左右非対称(アシンメトリー)があります。
その後、渡来文明の影響で左右対称の弥生時代になりますが、日本人の左右非対称(アシンメトリー)を愛するルーツは縄文時代から根付いていたようです。
縄文時代以来何かと抑圧されてきた左右非対称の美意識は、江戸時代の鎖国という壁に守られて、再び花開き洗練され、浮世絵を始めとする日本美術は、ジャポニズムとして十九世紀の西洋に衝撃を与えました。
そのジャポニズムは西洋の画家たちに強い影響を与えアール・ヌーヴォーという美術運動に結びついていきました。
19世紀のヨーロッパでは歴史的に争いが絶えなかったので、政治的な意図として、秩序や安定を表す左右対称の造形が好まれたのではないかと考えられます。
民衆に技術や権力を示すことができるからです。
日本では島国のため国同士の争いが少なかったので、独自の文化、情緒や風情を重んじる感性が発展したのではないでしょうか。
お花の生け方という分野でも、東西の違いは明確です。
ヨーロッパのフラワーアレンジメントはフォルムをまん丸にし、どこから見てもシンメトリーで同じように美しく仕上げます。
一方日本の花道では、1つ1つの草花の個性を活かしながら、「間」を持たせてアシンメトリーな作品にします。
それぞれの植物の個性をまとめ、全体の完璧さを生み出すシンメトリーに仕上げるには技術が必要です。
一方、重心や奥行きなども考慮し、アシンメトリーな美しさを生み出すには絶妙なセンスが重要になってきます。
日本人のアシンメトリーのデザインは、時間経過を鋭く捉える日本人の感性から生み出されたものです。
『諸行無常』という言葉にもあるように、『全てのものごとは、とどまることなく変化してゆく』と考えてきました。
時間経過を計算し、植物の姿が変わっていくことも、作品としてのデザインに含まれているのです。
アシンメトリーのデザインなら、最初から不均衡なので、植物が成長することで全体の調和が失われるどころか、奥行きが出て深みのあるデザインになる。
『時間の移ろい』も含めての芸術なのです。
自然と調和しながら作品にしていく。
アシンメトリーで絶妙のバランスが保たれていることに、『美しさ = 粋』を感じます。
ファッション界でも
1982年パリコレクションにデビューしたヨウジ・ヤマモトとコム・デ・ギャルソン。
服の既成概念を廃した独特の表現手法で世界のデザイナーに衝撃を与え『東からの衝撃』と言われた。
コムデギャルソンはファッションの歴史、西洋美術に向き合い、アシンメトリーや異質な素材の組み合わせ、ボロルックなどこれまでファッションが作り上げた概念を解体し、再構築。
西洋ファッションを否定したというよりは、新しい美学を求めていた。

実は、あの国民的キャラクターキティちゃんもアシンメトリー なのです。片耳にリボン、耳やヒゲの位置などよく見ると左右対称ではないのです。長くみんなに愛されるように、敢えてアシンメトリー にデザインし、今でも手描きにこだわっているそうです。
そして美容界でも、ヴィダルサッスーンはファイブポイント、アシンメトリーカットを発表し、1960年代スタイルの革命の中心的存在となりました。
Hair Styleでも紹介していますが、彼の代名詞とも言われているThe Asymmetric Geometricは事故で片目を怪我したクライアントのPeggy Moffitt(当時のファッションアイコン)の為に考案されたと言われている。
アシンメトリー は流動性や躍動感を表すだけでなく、それぞれの要素がお互いの個性を強調し合ったり、欠点を補う効果が生まれ、
『余韻』や『間』という形でその美しさを引き立たせる大切な要素とされています。
日本を始め、世界中で愛され続ける、まさに『魅惑のアシンメトリー』の歴史は非常に長いものでした。
皆さんも意識して是非作品撮りの時に取り入れてみてはいかがでしょうか。
ERI